MENU

テーマ9

目次

導入:3リージョンのプレイスタイルは数値で見るとどう違うのか

はじめに

こんにちは、家系です。今回はVCT 2026 Kickoffの3リージョン(Americas・Pacific・EMEA)における選手パフォーマンスプロファイルの比較分析を行います。

VCTを観戦していると、リージョンごとに「なんとなく試合の雰囲気が違う」と感じることがあるのではないでしょうか。Pacificは派手なデュエルが多い、EMEAは堅実で崩れにくい、Americasはバランス型――こうした印象論は以前から語られてきましたが、実際にデータで裏付けられるものなのかは別の問題です。

そこで今回は、ACS・FKPR・KAST・ADR・クラッチ率といった主要指標を用いて、3リージョンのプレイスタイルを定量的に比較し、それぞれの「パフォーマンスプロファイル」を浮き彫りにすることを目標とします。分析にあたっては、以下の仮説を設定しました。

仮説:Pacificは攻撃的(高FKPR・高ACS)、EMEAは安定志向(高KAST・高クラッチ率)であり、Americasはその中間に位置する。

使用したデータ

分析には以下の3大会の全選手スタッツを使用しました。データソースはvlr.ggの公開統計ページです。

大会名リージョン開催期間対象選手数総ラウンド数範囲
VCT 2026: Americas KickoffAmericasJan 16 – Feb 16, 202657名104–440
VCT 2026: Pacific KickoffPacificJan 22 – Feb 15, 202655名133–432
VCT 2026: EMEA KickoffEMEAJan 20 – Feb 16, 202657名169–477

なお、各選手のラウンド数には差があるため、リージョン平均の算出にはラウンド数による加重平均を用いています。また、クラッチ率(CL%)はデータ欠損のある選手が一部存在するため、有効データのみで集計しています。


分析:リージョン別パフォーマンスプロファイルの多角的比較

分析① ACS・ADR・KPRで見る「火力プロファイル」

最初に検証するのは、各リージョンの選手がラウンドあたりどれだけのダメージとキルを生み出しているかという「火力」の側面です。仮説に従えば、Pacificが最も高い数値を示すはずです。

以下の表は、各リージョンにおけるACS(Average Combat Score)・ADR(Average Damage per Round)・KPR(Kills Per Round)のラウンド加重平均をまとめたものです。

指標AmericasPacificEMEA
ACS196.43199.58200.73
ADR127.24129.89131.01
KPR0.680.690.70
リージョン別 火力指標の比較(Kickoff 2026)

わかること

  • ACSとADRの最高値はEMEAであり、Pacificが最高ではない。EMEAがACSで+4.30pt、ADRで+3.77ptほどAmericasを上回っています。
  • Pacific はAmericasを上回るものの、EMEAにはわずかに届かず、3リージョン中2番目に位置しています。
  • 3リージョン間の差はACSで約4pt、ADRで約4pt程度であり、火力面での差は比較的小さいと言えます。

仮説判定(火力面):「PacificのACSが最も高い」は不支持。EMEAが火力指標でもトップであり、Pacificが突出して攻撃的とは言えない結果です。

分析② FKPR・FDPRで見る「先手志向プロファイル」

次に検証するのは、ファーストキル/ファーストデスの頻度から読み取れる「先手志向」の強さです。FKPR(First Kill Per Round)が高いリージョンほど積極的にデュエルを仕掛ける傾向にあり、FDPR(First Death Per Round)が高ければリスクの裏返しとも解釈できます。仮説では、PacificのFKPRが最も高いと想定しています。

指標AmericasPacificEMEA
FKPR0.1030.1110.095
FDPR0.1050.1110.101
FK-FD差分-0.0020.000-0.006
リージョン別 先手志向指標の比較(Kickoff 2026)

わかること

  • PacificのFKPRは0.111で3リージョン中最高。EMEAの0.095と比較すると+0.016の差があり、先手を取りにいく頻度が明確に高いと言えます。
  • ただし、PacificはFDPRも最高値(0.111)であり、先手を仕掛けた分だけ先に倒される頻度も高い「ハイリスク・ハイリターン」型のプロファイルです。
  • EMEAはFKPR・FDPRともに最低値であり、序盤のデュエルを避ける傾向が顕著です。これは後述するKAST(安定性)の高さと整合します。
  • FK-FD差分(ファーストキルとファーストデスの差)で見ると、Pacificが±0でトントン、Americas・EMEAはマイナスとなっています。Pacificはリスクを取る分だけ見返りも得ていると解釈できます。

仮説判定(先手志向):「PacificのFKPRが最も高い」は支持。FKPRでPacificがEMEAを+0.016上回り、攻撃的なデュエル志向がデータで裏付けられました。

分析③ KAST・APR・クラッチ率で見る「安定性プロファイル」

ここまでで攻撃面のプロファイルを把握しました。次に検証するのは、ラウンドへの貢献安定性とクラッチ(不利状況からの勝利)遂行力です。仮説ではEMEAのKASTとクラッチ率が最も高いと想定しています。KAST(Kill, Assist, Survive, Traded の割合)はラウンドへの関与率を示す指標で、値が高いほど「空気になるラウンドが少ない」ことを意味します。

指標AmericasPacificEMEA
KAST(%)71.1170.8570.86
APR0.2600.2460.258
CL%(有効データ平均)14.5616.4915.23
リージョン別 安定性指標の比較(Kickoff 2026)

わかること

  • KASTはAmericasが71.11%で最高値であり、EMEAが最高という仮説は不支持。ただし3リージョン間の差はわずか0.26ppであり、統計的に有意な差とは言い難い水準です。
  • APR(Assists Per Round)はAmericasが0.260で最高。噛み砕いて言うと、Americasの選手はアシスト経由の貢献が他リージョンより多く、チームプレイの連携度が高い可能性を示唆しています。
  • クラッチ率はPacificが16.49%で最高であり、EMEAが最高という仮説は不支持。Pacificの個人技量の高さがクラッチ場面で発揮されていると考えられます。

仮説判定(安定性):「EMEAのKAST・クラッチ率が最も高い」は不支持。KASTはAmericasが、クラッチ率はPacificがそれぞれトップであり、EMEAの安定志向は限定的な根拠しか持ちません。

分析④ HS%で見る「エイム精度プロファイル」

最後に、ヘッドショット率(HS%)をリージョン間で比較します。HS%はエイム精度の指標であると同時に、武器選択やプレイスタイル(慎重なヘッド狙いか、ボディ中心の速射か)を反映するものでもあります。

指標AmericasPacificEMEA
HS%27.5828.0730.47
EMEAのヘッドショット率が他リージョンを大きくリード(Kickoff 2026)

わかること

  • EMEAのHS%は30.47%で、Americasの27.58%を+2.89pp、Pacificの28.07%を+2.40pp上回っています。これは本分析における最大のリージョン間差異です。
  • EMEAが火力指標(ACS・ADR)でもトップだった要因の一つが、このHS%の高さにあると推測できます。ヘッドショットはボディショットより高ダメージであるため、少ない弾数で効率的にダメージを与えていることを意味します。
  • 噛み砕いて言うと、EMEAは「デュエルの回数は少ないが、撃ち合いの質(精度)が高い」というプロファイルが浮かび上がります。

仮説判定(エイム精度):仮説には含まれていなかった指標ですが、EMEAのHS%の突出は「安定志向」の実態をより正確に説明する発見です。EMEAの強みはKASTやクラッチ率ではなく、撃ち合いの精度にあることがわかりました。

分析⑤ レーダーチャートで見る「総合プロファイル」

ここまでの個別分析を統合し、5つの主要指標(ACS・FKPR・KAST・CL%・HS%)を標準化してレーダーチャートで可視化します。各指標をリージョン間の相対値に変換し、プレイスタイルの全体像を一枚の図で把握できるようにしました。

3リージョンのパフォーマンスプロファイル(Kickoff 2026)

わかること

  • Pacific:FKPRとCL%が突出した「先手デュエル+クラッチ型」。個人技で局面を打開するスタイルが数値に表れています。
  • EMEA:HS%とACSが突出した「高精度エイム型」。デュエル頻度は低いものの、撃ち合いの質で勝負するスタイルです。
  • Americas:KASTとAPRが相対的に高い「チーム連携型」。個々の突出した指標はないものの、ラウンドへの関与率とアシスト数でバランスよく貢献しています。

考察:分析結果から考えるリージョンごとの「勝ち方の文法」

分析①〜⑤の結果を仮説判定表として整理します。

仮説判定根拠
PacificのACSが最も高い不支持ACSトップはEMEA(200.73)。Pacificは2位(199.58)
PacificのFKPRが最も高い支持Pacific 0.111 で最高。EMEAの0.095を+0.016上回る
EMEAのKASTが最も高い不支持KASTトップはAmericas(71.11%)。ただし差は0.26ppと極めて小さい
EMEAのクラッチ率が最も高い不支持CL%トップはPacific(16.49%)。EMEAは2位(15.23%)

仮説4項目のうち、支持されたのは「PacificのFKPRが最高」の1項目のみでした。当初の「Pacific=攻撃的、EMEA=安定志向」という二項対立的な見方は、データが示す実態よりも単純化されていたと言えます。

データから浮かび上がった各リージョンの実像は、より複雑で興味深いものです。Pacificの攻撃性はFKPR(先手デュエル頻度)とクラッチ率に表れる「個人打開力」が本質であり、ACSやADRといった火力総量では必ずしもトップではありません。一方、EMEAの強みはKASTやクラッチ率ではなく、HS% +2.89ppという圧倒的なエイム精度にあり、これが「少ないデュエルで効率的に火力を出す」スタイルの根幹を成しています。そしてAmericasは突出指標こそないものの、KAST 71.11%とAPR 0.260というチーム連携の厚みが特徴であり、個人技ではなくシステムで勝つスタイルと表現できます。

リージョン間差異への各指標の寄与度を定量的に推定すると、最も差が大きかった指標はHS%(最大差+2.89pp)であり、次いでFKPR(最大差+0.016)、CL%(最大差+1.93pp)の順です。KAST(最大差+0.26pp)やACS(最大差+4.30pt)は相対的に差が小さく、リージョンの個性を決定づけているのは「撃ち合いの質」と「先手の取り方」の2軸であることがわかります。


結論:数値が語る3リージョンの「個性」

この記事のまとめ

この記事のまとめ

  • PacificはFKPR(0.111)とクラッチ率(16.49%)がトップの「個人打開型」リージョン。デュエルのリスクとリターンが均衡している。
  • EMEAはHS%(30.47%)とACS(200.73)がトップの「高精度エイム型」リージョン。安定志向の本質はKASTではなくエイム精度にある。
  • AmericasはKAST(71.11%)とAPR(0.260)がトップの「チーム連携型」リージョン。個の突出よりシステムの厚みで勝つスタイル。
  • 当初の仮説「Pacific=攻撃的、EMEA=安定志向」は部分的にしか支持されず、リージョン特性はより多面的なプロファイルとして理解する必要がある。
  • リージョン間の差異を最も強く規定しているのはHS%(最大差+2.89pp)とFKPR(最大差+0.016)であり、「撃ち合いの質」と「先手の取り方」が個性の2大軸である。

さいごに

今回の分析を通じて、漠然としたリージョンの「印象」がかなり具体的な数値像として可視化できたのではないかと感じています。個人的には、EMEAの強みがKASTではなくHS%に集約されていた点が最も意外な発見でした。「安定志向」と表現されがちなEMEAのスタイルは、実は「少ない撃ち合いを高確率で勝ち切る」という、むしろ攻撃の質に立脚したものだったわけです。

皆さんは、ご自身が応援するリージョンのプロファイルをどう感じたでしょうか。「うちのリージョンはこういう強みもあるのでは」といった意見があれば、ぜひXで教えてください。Masters Santiago 2026のデータを加味すれば、リージョン間の直接対決でプロファイルの差がどう出るかも検証可能ですので、続編として取り組んでみたいと考えています。

他の記事はe-Analysis トップページからご覧いただけます。記事の更新情報はX(@家系)で発信していますので、フォローいただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次